2023年7月7日。夏の高校野球 岩手県大会が開幕した。
新型コロナウイルスの蔓延により2020年の夏以降、声出し応援の規制などが行われ、野球というスポーツと我々の生活との結びつきが薄くなっていた。
今年は4年ぶりに声出し応援も解禁され、取り戻しつつある当たり前に懐かしさを感じながらも、新たなドラマが生まれ歴史を紡いでいくことが予想される。
今回は創部7年目で初となる夏のシード権を獲得した「盛岡誠桜高校」を訪れ、夏の大会直前の意気込みなどを取材した。
創部7年目
監督 / 石橋 智(就任2年目)
部員数 / 3年(12名) 2年(10名) 1年(38名)
大会成績 / 今年度春季大会 ベスト8
盛岡誠桜高校から車で15分のところにある練習場へ向かうと、すでに選手たちが練習に励んでいた。大会開始まで1週間を切っている中、監督の石橋智氏が語ってくれた。
ー 夏の大会を直前に控えて、今のチームの雰囲気はどうですか?
石橋:ピリピリしてますよ。当然、勝たせるためにはそういう雰囲気にしていかなきゃいけないので。そういう面で、場の空気作りをコーチがやってくれているので非常に助かっています。今は誠桜野球部にとって転換期なので。2年生、3年生は10人ずつだから去年の秋は全員ベンチに入っていたんですよ。で、今度中学生(現1年生)が来るぞ。追い越されるぞ。本当に冬頑張らなきゃダメだぞと言ってきていました。
盛岡誠桜高校野球部は、2・3年生合計で22名の中、今年入部した新入生はなんと38名。部員の半数以上を1年生が占めるフレッシュなチームで、春季大会では多くの1年生がベンチ入りし、試合にも出場した。38名の戦力が加わり、チームとしても変化を遂げている。大会直前の今、何か新しいコトに挑戦するのではなく、日々行っている練習に取り組んでいるようだ。
ー 夏の大会に向けて今1番大事にしていることとは
石橋:気持ちを作っていくというか、「よしやってやるぞ!」という風に生徒の気持ちを持っていくところですかね。3年生が失敗して負けるのはいいんですよ。しかし、1・2年生で失敗して負けていられないよと言っています。3年生は最後だから、やらかして負けるのはそれでいいという気持ちでプレーしてもらいたいですね。ただ、2・3年生には勝利に対する貪欲さをもっと見せてもらいたいなと思います。上級生はとても優しい子たちなので。野球自体は上達しているんですが、やってやるぞという気持ちがもう少し出せればいいですね。
かつて秋田工や黒沢尻工、青森大学、青森山田中などを指揮し、全国大会出場経験のある石橋監督。昨年4月から盛岡誠桜野球部の監督に就任し、生徒に”勝つ野球”を伝え、就任前とは180°違う戦い方やメンタルの強化を指導している。生徒たちの野球に対する姿勢について、石橋監督は語った。
石橋:野球は頭を使わないと上手くなれないスポーツなんですよ。自分のところにゴロが来たらどう処理するのか、ライナーが来たらどうするか。これらは多分小学校中学校で教わる事なんです。高校からは、ボールを弾いたらどうする、弾いて距離があったらどうする。後ろにヒットが行ったらどう動くか…そういう事を考えた上でプレイしなければならないんです。うちの選手たちはまだ、誰かの声で動こうとしている節があるので、そこをクリアできれば大きく成長できると思います。
ー 創部から間もない盛岡誠桜高校野球部は、今まで教えてきた生徒達と指導方法を変えている部分はありますか?
石橋:基本的にはどの学校にいても指導方法は一緒ですね。試合に勝っていくためには、スランプのないものをしっかりやろうという部分を大切にしています。ただ、指導したものが全て身につくわけではないので、何度も同じことを言い続けています。その結果、選手たちの身体に染み付いてくれればいいなと思って指導し続けています。
練習だけではなく、体づくりのためにご飯も相当食べさせています。みんな寮に住んでいるので、朝からどんぶり3杯、昼は学校、夜も3杯食べています。みんなよく食べるので、旅館へ行くとスタッフのみなさんが食事の量の多さにびっくりしていますね。
今年5月に開催された大会では、優勝した花巻東に4-3で敗れベスト8という結果に終わったが、盛岡誠桜にとって夏につながる試合になったに違いない。石橋監督に春季大会の振り返りと、これから望む夏の大会に向けての決意を語ってもらった。
ー 春の花巻東戦を改めて振り返るとどうでしたか
石橋:勝つのは難しいだろうなと思ってたので、気持ち的には楽でしたね。岩手県民は100%花巻東が勝つと思ってたと思いますし、全国の野球ファンも花巻東が勝つと思っていたでしょうし。負けて元々、勝って1-0だよって話してました。
1-0で負けるのも10-0でコールドで負けるのも、結果は一緒なんですよ。だから、相手が強ければ強いほど緊張しないですね。「いいか、負けても銃殺刑にならない。だから大丈夫だ、腹括れ。失敗してもいいから。失敗して負けても監督のせいになるからオッケーだ」と言っています。
ー 夏大会では初のシード校となりましたがどんな心境ですか
石橋:生徒には通過点だよと言う話をしてます。昨年の秋はベスト4に入る最高のチャンスだったのに逃してしまったので。今年こそという気持ちで取り組んでいきたいですね。また、昨年対戦して敗北した水沢高校と初戦で戦う可能性があるので、もし戦うことになったらそのリベンジはしようって言っています。
10年前まで女子校だった盛岡誠桜高校(旧盛岡女子高等学校)が共学となり、野球部が創部して今年で7年目を迎えた。昨年から多くの学校を強豪校へと導いた石橋智氏が指揮を取り、甲子園を現実的に目指すことができるチームへと成長している。石橋氏に野球の技術だけでなく彼が目指している「勝負師」について、約40年の監督業の経験から得た価値観について次章で深掘りしていく。